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(6)不正競争防止法では不十分
(1)会社・商品・サービスを識別するために必要
名前のない世界
もし世の中に人・物・事の名前がなければどうなるでしょうか?


(ある人)あの人を知ってる?
(他の人)どの人?
(ある人)背が高い、髪が短い、痩せている男の人
(他の人)そんな人、何十人も知ってるけど・・
人に名前がなければ、かなり面倒なことになります。
日本では名字(苗字)でお互いを呼び合うことが一般的です。同じ学校・職場などに同姓がいる場合は、下の名前やあだ名で呼び合います。同姓同名がいる場合は、1号、2号・・
人は名前という目印で人を識別(区別)しています。
これと同じように、会社・商品・サービスを識別する目印が商標です。
つまり、商標は会社・商品・サービスを識別するために必要となります。
このような理由から、商標とは、「事業者が、自己(自社)が取り扱う商品・サービスと、他人(他社)が取り扱う商品・サービスとを識別(区別)するために使用するマーク(識別標識)」と定義されています。
(2)出所の混同を防止するために必要


(ある人)お菓子のalpha(アルファ)が好きなんだ
(ある人)安い!いつもの値段の半額!買おう
(ある人)なんか違う・・パサパサしてる
(ある人)よく見たら alphe(アルフェ)だった
ある人は、商標を目印に商品(お菓子のalpha)を買おうとしましたが、紛らわしい商品名の商品(お菓子のalphe)を間違えて買ってしまいました。これを「出所の混同(しゅっしょのこんどう)」といいます。
商標法は、商品・サービスの出所の混同を防止し、取引秩序の維持を図ることで産業の発達を図ることを目的とした法律です(商標法第1条)。そして、商標法は、取引秩序の維持を図るために、自己の商品・サービスと出所の混同を生じさせるような他者の行為を排除することができる商標権を付与しています(商標法第25条、第37条)。
上のようなケースでは、お菓子alpha(アルファ)の生産者・販売者は、お菓子alphaの商標権を有している場合、お菓子alphe(アルフェ)の生産者・販売者に対し、お菓子alpheの生産・販売の停止を求める差し止め請求を行うことができます。さらに、お菓子alphaの生産者・販売者は、お菓子alpheの生産者・販売者に対し、損害賠償請求を行うことができます。
このように商品・サービスの出所の混同を防止するために商標権を取得する必要があります。
そもそも、商標は、同一の商標を付した商品又はサービスは、いつも一定の生産者、販売者又は提供者によるものであることを示す機能を有しています。これを出所表示機能といいます。
商標が有名になればなる程、商標と似ている名称の商品・サービスが出回ります。そして、消費者が商標と似ている名称の商品・サービスを間違えて購入してしまうおそれがあります。会社名・商品名・サービス名を適切に管理するために、商標権を取得し、自社の商標と紛らわしい商標を排除する必要があります。
(3)商品の品質・サービスの質を保証するために必要
消費者は、以前に購入した商品の品質が良かったからまた商品を買いたい、以前受けたサービスの質が良かったからまたサービスを利用したいと考えます。この際、消費者は、商標を手がかりに商品やサービスを選択します。
商標は、同一の商標を付した商品・役務は、いつも一定の品質又は質を備えているという信頼を保証する機能を有しています。これを品質保証機能といいます。
今は、販売者と製造者が異なる商品が増えています。
世界的企業であるアップルは、自社で工場を持っていません。アップルのiPhoneは誰がどこで製造しているのでしょうか?
iPhoneは台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)が中国の工場で製造しています。アップルは製品の企画、設計、品質管理、販売を担い、鴻海精密工業が受託製造企業として製品の製造を行っています。このような自社で生産設備を持たない経営方式をファブレス経営といいます。
アップルだけではありません。任天堂、無印良品、キーエンスもファブレス経営を行っている企業として有名です。
消費者は、製造者が誰であるかよりも、商品の品質が良ければ満足します。このような傾向はサービス業でも同様です。飲食店で提供される食べ物や飲み物が店舗で作られていなくても、総合的なサービスの質が良ければサービスを利用します。
このように商標が有する商品の品質・サービスの質を保証する機能がより一層重要となっており、このような機能を担保するためにも商標権を取得し、商品やサービスに付される商標を大切に管理する必要があります。
(4)自身の会社・商品・サービスの信用を守るために必要
ビジネスは、目に見えない「信用」というインフラの上に成り立っています。信用がなければ商品を購入してもらえず、サービスを受けてもらえません。
一定の品質を有する商品に商標を付して販売し、一定の質を有するサービスに商標を付して提供していくうちに、商標に業務上の信用が蓄積していきます。
実は、商標法は、商標という「マーク」を保護する法律ではなく、商標使用者の「業務上の信用」を保護することを目的とした法律です(商標法第1条)。商標法上の商標は、商標使用者が任意に選択できる選択物という位置付けです。
信用を得るには時間がかかります。一度築いた信用を守るためにも、商標権を取得し、信用を失墜させるような他者の行為を排除する必要があります。

また、信用を獲得した商標は、有形の財産と同様に財産的価値を有します。そして、無形の財産としての商標は、売買などの取引の対象となるとともに、貸したり借りたりすることができ、さらに抵当権の対象ともなり得ます。
2008年、アメリカのフォード社は、自社が保有するブランドであるジャガーとランドローバーをインドのタタ・モーターズに売却しています。また、パナソニックは、三洋ブランドの白物家電を売却し、中国ハイアールにSANYOの使用も許可しています。
財産的価値を有する商標を適切に管理するためにも商標権を取得する必要があります。
(5)ブランド化を図るために必要
「ブランド」といえば、シャネルやエルメスなどのハイブランドを思い浮かべる人が多いと思いますが、そのようなハイブランドに限られるわけではありません。
近年、会社のブランド戦略が重視されています。商品・サービスの品質や安全、環境などの付加価値を重要視する傾向が強まっています。
ブランド戦略は、なにも大企業だけではありません。中小企業であっても自社の商品・サービスが市場で消費者に選択され得るためにはブランド戦略が有益です。
ブランド化を図るためには、商品・サービスの品質の確保、環境への配慮、安全性の担保、法令の遵守、適切な情報発信などが必要です。これとともに、自社の名称、商品・サービスの名称を管理することも重要となります。
自社の商品・サービスのブランド化を図るためにも商標権を取得する必要があります。
(6)不正競争防止法では不十分
不正競争防止法は、事業者間での公平な競争を妨げる行為を防止するための法律です。
不正競争防止法においても、商標法と同様に、紛らわしい商標を使用する行為を防止する規定が設けられています。
また、不正競争防止法は、商標法における商標権の設定登録のような行政処分を行う必要なく保護を受けることができます。
以下の行為が該当します。
1.周知な商品等表示の混同惹起行為(こんどうじゃっきこうい)
周知な商品等表示(氏名、商号、商標、商品の容器、包装など)と同一又は類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を販売等して、周知な商品等表示と混同を生じさせる行為(不正競争防止法第2条第1項第1号)
2.著名な商品等表示の冒用行為(ぼうようこうい)
著名な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を販売等する行為(同条第2号)
上記のように、不正競争防止法では、不正な行為と認められるためには、周知性・著名性(つまり広く社会に知られていること)が条件となっています。従って、周知・著名な商標でなければ不正競争防止法の保護の対象となりません。
また、商標法では、特許庁の審査官が審査を行い、商標登録が可能なものに対して商標権の設定という行政処分を行います。昔風に言えば、商標権を取得するということは「あなたは独占的に商標を使用してもよく、似ている商標の使用を排除してもよいです」というお上のお墨付きを得たことになります。
商標権を取得することにより、不正な行為を行う者に対して、周知性・著名性を立証することなく迅速に対応することが可能となります。この点で商標権を取得するメリットがあります。
(7)トラブルに巻き込まれないための保険として必要
病気等になったときのことを考えて生命保険に入りますし、事故や災害に備えて損害保険に入ります。
商標権を取得することも似たような効果があります。
商標権を取得することで、不正な行為を行う者を牽制することができます。また、トラブルが起こったときも不正な行為に対して差し止めなどの迅速な措置を取ることができます。
このようにトラブルに巻き込まれないため、またトラブルに巻き込まれたときのための保険として商標権を取得する必要があります。
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