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(1)自己の商品・役務(サービス)と他人の商品・役務とを識別することができないもの
本文
商標登録を受けるためには、以下に示す商標法第15条に規定する条件(要件)をすべて満たさなければなりません。
「第十五条 審査官は、商標登録出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その商標登録出願に係る商標が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定により商標登録をすることができないものであるとき。
二 その商標登録出願に係る商標が条約の規定により商標登録をすることができないものであるとき。
三 その商標登録出願が第五条第五項又は第六条第一項若しくは第二項に規定する要件を満たしていないとき。」
このうち、特に出願人が商標登録出願の際に気を付けておくべき条件は以下のものです。
(1)自己の商品・役務と他人の商品・役務とを識別することができないもの(商標法第3条)
ポイント:商品・役務(サービス)の内容を直接的に連想させる名称等は、わかりやすく、覚えやすいものです。しかし、このような名称等は、識別性がない名称等として登録されない可能性が高くなってしまいます。
①普通名称
商品又は役務の「普通名称」を普通に用いられる方法で表示する標章(マーク)のみからなる商標は登録を受けることができません(商標法第3条第1項第1号)。
「普通名称」とは、その名称が特定の業務を営む者から流出した商品又は特定の業務を営む者から提供された役務を指称するのではなく、取引界において、その商品又は役務の一般的な名称であると認識されるに至っているものをいい、略称や俗称も普通名称として扱います(商標審査基準)。
また、「普通に用いられる方法」とはその書体や全体の構成等が特殊なものでないものをいいます。例えば、取引者において使用されない特殊なレンダリングで表示した場合は本規定に該当しません。また、他の文字、図形などと組み合わせることにより登録されることもあります。
具体例
・商品「時計」に使用する商標として「時計」の文字、商品「アルミニウム」に使用する商標として「アルミニウム」の文字又はその略称である「アルミ」の文字、商品「パーソナルコンピュータ」に使用する商標として「パーソナルコンピュータ」の略称である「パソコン」の文字、商品「塩」に使用する商標として「塩」の俗称である「波の花」の文字、役務「美容」に使用する商標として「美容」の文字、役務「航空輸送」に使用する商標として「空輸」の文字、役務「損害保険の引受け」に使用する商標として「損害保険」の略称である「損保」の文字など
・動き商標、ホログラム商標及び位置商標を構成する文字が、商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示するもののみからなるもの
・商品又は役務の普通名称を単に読み上げたにすぎないと認識させる音
●商品「ジュース」に使用する商標「JUGO」はスペイン語でジュースを表すとしても、我が国において広く一般に知られているとは言えないとの理由により普通名称とは認定されませんでした。
●「RAMEN」はラーメンを想起するとしても、ラーメンの欧文字は「lamian」であり、「RAMEN」よりラーメンを指称するとは言えないとの理由により普通名称とは認定されませんでした。
●普通名称化:当初は特定の業務を営む者による商品・役務を指称する商標としての機能を発揮していたが、その後、商標が消費者に広く認知された結果、普通名称となることがあります。普通名称化したものとしては、「エスカレーター」「正露丸」「魔法瓶」などがあります。
●普通名称化していないもの:「宅急便」はヤマト運輸株式会社の登録商標です。普通名称(一般名称)は「宅配便」。「ウォシュレット」はTOTO株式会社の登録商標です。普通名称(一般名称)は「洗浄機付き便座」。「バンドエイド」はジョンソンエンドジョンソンの登録商標です。普通名称(一般名称)は「絆創膏」。
②慣用商標
商品又は役務について慣用されている慣用商標は登録を受けることができません(商標法第3条第1項第2号)。
「慣用商標」とは、もともとは他人の商品又は役務と区別することができる商標であったものが、同種類の商品又は役務について、同業者間で一般的に使用されるようになったため、もはや自己の商品又は役務と他人の商品又は役務とを区別することができなくなった商標のことをいいます(商標審査基準)。
具体例
・商品「清酒」に使用する商標として「正宗」の文字
・商品「あられ」に使用する商標として「かきやま」の文字
・商品「カステラ」に使用する商標として「オランダの船の図形」
・商品「自動車の部品・付属品」に使用する商標として「純正」の文字
・役務「宿泊施設の提供」に使用する商標として「観光ホテル」の文字
・役務「婚礼の執行」に使用する商標として「赤色及び白色の組合せ」からなる色彩
・商品「焼き芋」に使用する商標として「石焼き芋の売り声」からなる音
・役務「屋台における中華そばの提供」に使用する商標として「チャルメラの音」
③商品・役務の記述的表示
単に商品の産地、販売地、品質、その他の特徴や、役務の提供の場所、質、その他の特徴等を普通に用いられる方法で表示する標章(マーク)のみからなる商標は登録を受けることができません(商標法第3条第1項第3号)。
具体例
・商品の産地、販売地…商品「菓子」に使用する商標として「東京」の文字
・商品の品質…商品「シャツ」に使用する商標として「特別仕立」の文字
・商品の特徴…商品「自動車用タイヤ」について使用する商標として「黒色」の色彩
・役務の提供場所…役務「飲食物の提供」に使用する商標として「東京銀座」の文字
・役務の質…役務「医業」に使用する商標として「外科」の文字
・役務の特徴…役務「焼き肉の提供」について、音商標として「『ジュー』という肉が焼ける音」
・その他…「一級」「一番」「スーパー」「よくきく」などの文字は商品の品質等を表す
●産地の表示について、東京で作られたものを「東京」と表示する場合だけでなく、大阪で作られたものを「東京」と表示する場合も含まれます。
●商品「コーヒー」等に使用する商標として「GEORGIA」は、商品が商標の表示する土地で現実に生産・販売されることを必要とせず、需要者・取引者によってその土地で生産・販売されているであろうと一般に認識されれば足りるとされ、登録が認められませんでした。
●2以上の記述的表示からなる商標も本号に該当します。
●図形又は立体的形状をもって、商品の産地、販売地、品質等を表示する商標も本号に該当します。
●商品「コーヒー、ココア、茶」等に使用する商標「オープンカフェ」は「道路に面した壁を取り払ってテラスのように開放的にした喫茶店」という商品の販売地を表すとされ、登録が認められませんでした。
④ありふれた氏又は名称
「ありふれた氏又は名称」を普通に用いられる方法で表示する標章(マーク)のみからなる商標は登録を受けることができません(商標法第3条第1項第4号)。
「ありふれた氏又は名称」とは、例えば、電話帳において同種のものが多数存在するものをいいます。
ありふれた氏、業種名、著名な地理的名称(行政区画名、旧国名及び外国の地理的名称を含む。)等に、「商店」「商会」「屋」「家」「社」「堂」「舎」「洋行」「協会」「研究所」「製作所」「会」「研究会」「合名会社」「合資会社」「有限会社」「株式会社」「K.K.」「Co.」「Co., Ltd.」「Ltd.」等を結合してなる商標は、原則として、本号でいう「ありふれた名称」に該当します。
具体例
・「山田」、「スズキ」、「WATANABE」、「田中屋」、「佐藤商店」等の文字
・動き商標、ホログラム商標及び位置商標を構成する文字が、ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示するもののみからなるもの
・ありふれた氏又は名称を単に読み上げたにすぎないと認識させる音
⑤極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみ
極めて簡単で、かつ、ありふれた標章(マーク)のみからなる商標は登録を受けることができません(商標法第3条第1項第5号)。
具体例
・仮名文字の1字、数字、ありふれた輪郭(○、△、□等)、ローマ字(A~Z)の1字又は2字
・1本の直線、波線、円柱、球、直方体、三角柱など
・動き商標、ホログラム商標及び位置商標を構成する文字や図形等が、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるもの
・単音やこれに準ずる極めて短い音
⑥1号から5号の総括条項
その他、何人かの業務に係る商品又は役務であるかを認識することができない商標は登録を受けることができません(商標法第3条第1項第6号)
具体例
・地模様(例えば、模様的なものの連続反復)のみからなるもの
・商品又は役務の宣伝広告、企業理念又は経営方針
・元号
・喫茶店に「愛」「純」「ゆき」「蘭」「オリーブ」など
・色彩(第3条第1項第2号及び第3号の規定に該当するものを除く)
・自然音を認識させる音
・需要者にクラシック音楽、歌謡曲、オリジナル曲等の楽曲としてのみ認識される音
長年の使用による識別性の発揮
特定の者が「商品・役務の記述的表示」(3号)、「ありふれた氏又は名称」(4号)、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」(5号)を長年その者の業務に係る商品・役務に使用した結果、その商標が商品・役務と密接に結びつくことで、その商標が付された商品・役務が一定の出所から流出したことを需要者に認識されるようになり得ます。この場合は、上記3号から5号に該当する商標であっても、商標登録が認められます。
なお、上記の商標の使用によって自己と他人の商品・役務とを区別することができるまでに至ったことの説明として、実際に使用した商標及び商品・役務や使用した期間、地域、生産量・販売、広告回数等を証明する証拠書類の提出が必要となります。
●長年の使用により識別性が発揮されたものとして登録された事例
・指定商品「鶏肉入り又は鶏肉味の即席中華そばめん」について「チキンラーメン 」(商標登録第2685160号)
・指定商品「自動車」等について「SUZUKI」

・指定商品「かつおを使用してなるつゆ」について「追いがつお」(商標登録第4697198号)

(2)公共の機関のマークと紛らわしい等、公益性に反するもの
ポイント:公共の機関のマークと紛らわしい商標や、需要者の利益を害するおそれのある商標は登録を受けることができません。
①国旗、菊花紋章、勲章又は外国の国旗と同一又は類似の商標(商標法第4条第1項第1号)
②外国、国際機関の紋章、標章(マーク)等であって経済産業大臣が指定するもの、白地赤十字の標章(マーク)又は赤十字の名称と同一又は類似の商標等(商標法第4条第1項第2号、第3号、第4号、第5号)。
具体例
国際原子力機関、赤十字、ジュネーブ十字、赤新月、赤のライオン及び太陽
③国、地方公共団体、公益事業等を表示する著名な標章(マーク)と同一又は類似の商標(商標法第4条第1項第6号)
「国」とは日本国を、「地方公共団体」とは地方自治法にいう都道府県及び市町村並びに特別区等をいいます。
具体例
・都道府県、市町村、都営地下鉄の標章(マーク)
・東京都交通局
・オリンピックのマーク、JETRO、JOC、IOC
④公の秩序、善良な風俗を害するおそれがある商標(商標法第4条第1項第7号)
商標自体がきょう激、卑わい、差別的なもの、他人に不快な印象を与えるようなもののほか、他の法律によって使用が禁止されている商標、国際信義に反する商標など、公序良俗を害するおそれがあるものは本号に該当します。
具体例
音商標が国歌(外国のものを含む)を想起させる場合。
⑤商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標(商標法第4条第1項第16号)
具体例
・商品「ビール」に使用する商標として「○○ウイスキー」の文字
・商品「菓子」に使用する商標として「パンダアーモンドチョコ」の文字(なお、指定商品を「菓子」から「アーモンド入りチョコレート」に補正することによって、この規定による拒絶理由は解消します。)
⑥博覧会の賞(商標法第4条第1項第9号)と同一又は類似の商標、商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標等(同第18号)
以上の標章(マーク)は公益性の観点から登録が認められません。
(3)他人の登録商標と紛らわしいもの
ポイント:商標登録出願が審査で拒絶される理由として最も多いものが、他人の登録商標がすでに存在するという理由です。
他人の登録商標と同一又は類似の商標であって、同一又は類似の指定商品・役務に使用するもの(商標法第4条第1項第11号)
文字や図形等の商標の類否判断にあたっては、商標の外観(見た目)、称呼(呼び方)、観念(意味合い)のそれぞれの要素を総合的に判断します。
動き商標の類否判断にあたっては、動き商標を構成する標章(マーク)とその標章が時間の経過に伴い変化する状態から生ずる外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合して、商標全体として考察します。
ホログラム商標の類否判断にあたっては、文字や図形等の標章とそれがホログラフィーその他の方法による視覚効果(立体的に描写される効果、光の反射により輝いて見える効果、見る角度により別の表示面が見える効果等)により変化する状態を総合して、商標全体として考察します。
色彩のみからなる商標の類否判断にあたっては、当該色彩が有する色相(色合い)、彩度(色の鮮やかさ)、明度(色の明るさ)を総合して、商標全体として考察します。
音商標の類否判断にあたっては、音商標を構成する音の要素及び言語的要素(歌詞等)を総合して、商標全体として考察します。
位置商標の類否判断にあたっては、文字や図形等の標章とその標章を付する位置を総合して、商標全体として考察します。
商品・役務の類否判断は、原則として「類似商品・役務審査基準」に従って判断します。
(4)周知・著名商標等と紛らわしいもの
ポイント:他人の氏名等を含む商標、周知・著名商標と紛らわしいものは登録を受けることができません。他人の氏名等を含む商標、周知・著名商標は商標登録されているかどうかを問いません。
①他人の氏名、名称又は著名な芸名、略称等を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)(商標法第4条第1項第8号)
ここでいう「他人」とは、現存する自然人及び法人(外国人を含む)を指します。
具体例
国家元首の写真やイラスト、著名な芸能人の芸名、スポーツ選手の名前等
②他人の周知商標と同一又は類似の商標であって、同一又は類似の商品・役務に使用するもの(商標法第4条第1項第10号)
「周知商標」とは、世間一般に広く知られた商標のことです。「周知商標」は、最終消費者まで広く認識されている商標だけでなく、取引者の間に広く認識されているものも含まれます。また、「周知商標」は、全国的に認識されている商標だけでなく、ある一地方で広く認識されている商標も含みます。
③他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある商標(商標法第4条第1項第15号)
例えば、他人の著名な商標と同一又は類似の商標を、当該他人が扱う商品・役務とは非類似の商品・役務に使用した場合に、その商品・役務が著名な商標の所有者、あるいはその所有者と経済的・組織的に何らかの関係がある者によって製造・販売又は役務が提供されたかのような印象を与えるときなどがこれに該当します。
④他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用する商標(商標法第4条第1項第19号)
具体例
・外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていない事情を利用して、商標を買い取らせるために先取り的な出願をする場合
・外国の権利者の国内参入を阻止したり国内代理店契約を強制したりする目的で出願する場合
・日本国内で全国的に著名な商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではないが、出所表示機能を希釈化させたり、その信用や名声等を毀損させたりする目的で出願する場合などが該当します。
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